対話型学習教材「防災トランプ」を用いた 中学校における防災授業の実施とその評価

要旨

 大規模災害発生時の被害は個々が置かれている状況や判断によって差が生じる。学校防災教育においても児童・生徒の置かれ得る状況や判断は異なることが想定される。そのため、防災を主題に児童・生徒の状況や判断を具体化する取り組みが授業として成立することが重要となる。この問題に対し、筆者らは参加者の発言機会を均一化し、体験や考えを表現することのできる対話型教材として防災トランプを開発した。防災トランプは楽しく取り組みながら体験談や考えを共有し、参加者間で話題提供者と学習者が入れ替わり学び合う防災教材として効果的である。
 本研究では神奈川県相模原市立小山中学校の第三学年の生徒に対して防災トランプを用いた防災授業を各クラスの担任である教員が実施した内容を示すとともに、質問紙調査からその有効性について評価を行った。
 その結果、生徒は授業に楽しく取り組み、ルールを理解していた。また、「授業に楽しく取り組めたこと」と「相手の話から学べたこと」には正の相関が認められた。さらに、相手の話から学びを得て、普段から防災について考えたいと内的な行動意識が喚起されていたことを確認した。一方、自分の話は相手に役立つかという観点では自己効力感が低い状況であった。「自分の話が相手に役立つ」という認識が多くの生徒に持たれなかったことについて、教員が「まとめ」の中でその視点を生徒に提示することで「自分の話が相手に役立つ」という自己効力感が生徒の意識にも影響を及ぼし、内発的動機づけを高める可能性が示唆された。

本文は『安全教育学研究』に掲載予定です。