働き世代の流出を抑制する集落営農の交流の場づくり

はじめに

お久しぶりです。佐々木です。

前回の投稿からかなり時間が空いてしまいました。


前回から約1年間、僕は遊び呆けてブログをさぼっていたわけではありません。

そう、4年生になった僕は大学4年間の集大成である「卒業設計」に取り組んでいたのです。

僕が制作した卒制の作品を紹介していきたいと思います。



研究のタイトル

働き世代の流出を抑制する集落営農の交流の場づくり:富山県南砺市山田地区を事例として



研究の背景

東京一極集中による集落の過疎化は、耕作放棄地の増大、空き家の増加、森林の荒廃など集落内の問題だけでなく、害虫・病虫害の発生、ごみの不法投棄、土砂災害の発生、水の流域管理の停止など周辺地域にも悪影響を及ぼしています。


私が一人暮らしを始めるまでの18年間暮らした富山県南砺市の山田地区もまた、働き世代の流出による過疎化が進む地域であり、将来的に同様の問題を抱えうる集落です。


現在山田地区では、集落の過疎化に伴い、住民組織の解散や行事の減少が起こっています。また、長い歴史を持った山田保育園は新設された統合保育園の完成および開園を受けて閉園しました。

住民が参加する地域活動や関わりの場の減少は地域コミュニティの機能低下に繋がり、地域環境の維持が困難になります。

それによる地区の魅力、暮らしやすさの低下はさらなる人口流出につながる負の連鎖を生み、将来的に集落の消滅が予測されることから解決に取り組まなくてはならない問題です。


研究を始める契機となった空間は同地区に立地する「山田保育園」です。

同園は現在、地域住民(高齢者が中心)の交流の場「山田ふれあい館」と名称を変え、躯体・構造物はほぼ改変せず利用する形式で解放がなされています。

現在この山田ふれあい館は、老人会のレクリエーション、交通安全教室などの講演会、文化まつりなど行事の会場としての利用がほとんどです。


しかしどの団体も活動するための場所としてふれあい館を各々で利用しているに過ぎず、雨風を凌げられること以外のふれあい館で活動する意味や、団体、イベント同士の関わりが希薄であるように感じられます。

約60年の長い歴史の中で、母校として、あるいは行事の会場として地域に親しまれてきたシンボル的な建物であった施設の新しい利用方法はこれで正しいのでしょうか。



研究の目的

本研究では、下記の2点を目的としました。

  1. ソフトの計画が重要視されるまちづくりを考える中で、山田地区を事例として、ハードである保育園が、親しまれてきた建築であるからこそできるまちづくりへの関わり方、集落での建築の立ち位置を明らかにすることで、まちづくりの分野において建築のソフトに寄り添うハードとしての在り方を発見します。
  2. 山田地区の住民に対するインタビュー調査結果に基づき、集落で必要とされる場の形成要因を明らかにし、その要因の成立を支える空間構造を明らかにします。さらに、明らかにした空間構造を理論的枠組みとし、元の団体やグループを超えた地域住民同士の関わりを促す設計コンセプトに基づき新たな施設を提案します。





研究対象地


富山県南砺市は8つに分類されます。その1つである福光地域の山田地区は市街地から離れ、田畑が多く商業施設が少ない地区となっています。



https://sankyoson.com/about/

この平野には散居村が広がっています。

散居村の特徴としては家の周りに巡らされた屋敷林です。この地方では屋敷林を「カイニョ」と呼び、季節風や吹雪、夏の日差しから家や人々の暮しを守っています。落ち葉や枝木などは大切な燃料として利用されています。またスギやケヤキ、タケなどは建材や用材としても利用されていました。これに加え、自分の家の周りの農地で米や野菜を作り、昔の散居村の人々はきわめて自給自足に近い生活をしていました。



調査内容

  1. 山田地区在住の住民に対して、以下2点に関するインタビュー調査を実施します。
    • 生活行動…日常の生活行動を調査することで、住民同士の関わりの実態を明らかにします。
    • 空間利用…行事や組織が利用する空間、施設を調査することで、集落における空間利用の実態、それに伴って得られる、関わりあう住民の関係性を明らかにします。
  2. 歴史書、他資料による南砺市の調査を行います。
  3. 地形図による自然状況の調査を行います。
  4. 集落営農への参加状況とその理由を調査するインタビューを行います。



インタビュー対象者

山田地区在住の住民85名



分析方法

インタビュー対象者を4つ世代で分類し、平日・休日の生活行動を地図に記し可視化します。住民同士の関わりの機会をグラフで提示し、生活における住民の共通点を明らかにすることを目的とします。



インタビュー調査による山田地区における住民の関わりしろの分析

はじめに、対象住民を「①18歳以下」「②19歳〜39歳」「③40歳〜59歳」「④60歳以上」に分類しました。以下、世代ごとの平日・休日の生活行動をまとめたマップ及び、インタビュー調査から明らかになった世代ごとの傾向です。




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18歳以下の平日・休日の生活行動

平日は保育園、学校へ、休日は都市部のショッピングモールなどを利用しており家と地区外の目的地の往復のみで地域住民との交流の機会がありません。
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19歳~39歳の平日・休日の生活行動

平日は地区外の職場、休日は①と同様に地区外の施設が主な目的地です。地域活動への参加も消極的で地域住民と交流がない人がほとんどです。
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40歳~59歳の平日・休日の生活行動

平日は地区外の職場で地域住民との交流はほぼありませんが、休日は集落営農に参加する人が多く、その拠点となる格納庫や農作業中に交流が行われています。
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60歳以上の平日・休日の生活行動

定年後で平日と休日の行動がほぼ変わらない人がほとんどです。集落営農を中心となって行う世代であり、日常的に地域住民と交流を行なっている人が多いです。
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交流の場に与える用途の決定

調査結果を以下にまとめます。


中年層、高齢層は集落営農に参加している割合が大きく、先祖からの土地を守って行くことが当然という認識で住民としての義務的な意識から農業を行っています。

若年層は参加していない割合が多く、収入が低いという理由が最も多いです。


中年層以上の世代が持つ先祖意識ではなく、と1つの職業という認識が強いです。子どもは農業に関して大人や祖父母がすることとなんとなく認識しており、日常的に触れる機会がないことからも興味・関心を生むきっかけを失っています。

参加が少ない若年層が魅力的に感じる新たな産業形態として所得の増大、雇用の創出、将来の山田を担う子どもたちが地元の産業を知り、関心を持てる機会を作り出す必要があります。

後継者不足から高齢者への負担が高まり、また、後継者となる人材を育てる仕組が不十分です。



提案する空間の用途

調査結果から、創出する空間の用途とそこで行われるプログラムは以下のように設定しました。


  • 子ども、学生

    保育園、学校帰りに気軽に立ち寄れる施設。遊び場、自習スペース、長時間滞在できる、話しやすい空間を創出します。

  • 若年層の働き世代

    仕事帰り、休日に目的地となる施設。カフェレストラン。手軽に始められる農業体験。

    山田地区の米の生産業を若い働き世代に魅力的な産業に進化させるために所得の増大、雇用の創出を目的とした米粉での6次産業化を行います。

  • 中年層の働き世代

    40-50代と60代以上の間ではこれまで実際に作業を行うことでしか技術継承の機会がありませんでした。先人から農業の知恵、コツを学べる場。育成場。

  • 高齢層の住民

    これまで山田ふれあい館で行われてきた老人会のプログラムが引き続き行える空間。

    ゲートボール、ペタンクなどクラブ活動ができる小規模なグラウンド。デイサービスが行えるコミュニティスペース。民謡教室、生け花教室、各種団体が行う会議が行える多目的室、和室。




提案する建築の用途

  • カフェ・レストラン
  • 直売所・ショップ
  • 工場(米から米粉の加工)
  • 厨房(農作物を使用した住民の料理教室で使用)
  • 住民農園(農業体験)
  • 託児室
  • 図書室
  • 体育館
  • 遊戯場
  • 多目的室
  • 和室



景観に溶け込む建築


https://style.nikkei.com/article/DGXMZO88953620W5A700C1TBP000/

散居村の景観を作り出す要素である建物・屋敷林・庭園・水田対象地一帯の住宅の屋敷林は春・秋の季節風や雪から建物を守るため西と南に暑く覆われています。





建物・屋敷林・庭園(農園)の要素を入れ周辺の散居村景観に溶け込むよう計画します。





南側の暗さを解消するため建物と屋敷林の間に空間を設けます。東と南に開いた空間構成とします。本計画での屋敷林は地域に溶け込むこと、伝統的な散居村景観の保全を目的としています。








18歳以下の利用


子ども達は保育園、学校帰りに立ち寄り、体育館や遊戯場で遊び、図書館、自習スペースでの自由な時間を過ごし、ここは保育園がなくなり疎遠になった地区の子どもたちが交流する場になります。





その中で目に入る住民農園。日常的に農業に触れる機会がない子どもたちは土を触る些細なところからバケツ稲づくり週末農園など簡単な体験を通して子どもやその親の世代が気軽に農業に触れられる機会を創出します。





エントランスのフロアレベルから工場、コミュニティセンターの2階へ回廊を繋ぎます。建物と農園は独立した空間でありながら半屋外の回廊を介することで段階的に外に出ていく空間をつくりだし、農園がより身近で気軽に足を踏み入れられる場所となります。回廊は人の流れを作り住民が顔を合わせるきっかけを作るとともに、子どもの遊び場となります。



19歳〜39歳の利用


働き世代の新たな雇用の創出、所得の増大を目的に米粉の6次産業を計画します。

工場では米を精米から粉砕を行い、その後袋詰め出荷します。米粉はエントランスのカフェ・レストランや直売所での販売だけでなく、近隣の小中学校での提供も期待できると考えます。


米粉の製粉行程図



6次産業計画における米粉の可能性



世界のグルテンフリー製品の需要が急速に高まる中で、日本においても小麦アレルギーを持つ人の増加や、健康に良い、ダイエット効果があるなどの理由から、グルテンフリーでパンやスイーツ、麺に加工できる米粉の需要は高まっています。

平成29年以降米粉の需要量が生産量を上回り、新型コロナウイルス感染拡大による巣ごもり消費の影響からも米粉市場は伸長しています。





コミュニティセンターを木造、工場をRC造、建物を繋ぐ回廊は鉄骨造とします。

外観は集落の景観に馴染むよう、木で仕上げ瓦葺きとし、工場は遮音吸音に配慮して設計しています。



模型写真















地区に点在する交流空間


山田地区内で10個存在する営農組合が各々所有する格納庫があります。

主に農業機械の車庫や事務所として使われており、集落営農においても利用頻度が高い建物であり、集落内に点在しています。

40-50代と60代以上の間では実際に作業を行うことでしか技術継承の機会がなかったため、この格納庫内に縦の関わりを生む交流の場を設けます。住民の語らいの場としてだけでなく実践以外の座学を通して、知識やコツ、機械の操作を学ぶ場として計画します。


点在する格納庫



研究の成果

調査に基づいて、明らかにした住民の共通点を基に計画した空間は住民を惹きつけ、そこから生まれる新たな営みや人間関係が「この地で生き続けたい」と感じる契機になると考えます。こうした住民が1人でも多く増えるきっかけに繋がる一助となれば幸いです。過疎化し、消滅を待つ集落においても、人口の流出を抑制する方法は存在し、私の出身地である山田地区もその事例の1つとなる可能性が示唆されたと考えます。




以上が僕の卒業研究になります。

最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。



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この記事を書いた人

【2020年度 卒業】富山県南砺市出身。人見知りでコミュニケーションが苦手ですが、人と関わることが好きです。過疎化が進む地元を事例に新しいコミュニティの形成をテーマに研究しています。

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