即席ミルク みるぽん

作品・提案の概要

非常用持ち出し袋のセットのような形で、乳幼児の栄養補給用のミルクキット「即席ミルクみるぽん」を発売する。できるだけコンパクトかつシンプルな作りにし、雑菌の付着や繁殖を抑える加工を施す。 内容物はセットで「加熱用二重袋(過熱剤つき)」「キューブ状ミルク(別のミルクでも可能)」「ジャバラ哺乳瓶」「乳首(付け替え可能)」「清浄綿」「滅菌水」の6点。また、「加熱用二重袋(過熱剤つき)」のみでも販売する。

作品・提案のねらい

第一のコンセプトとしては「いつでも、どこでも、すくすくと」。乳幼児のミルクを野外でも屋内でも、必要な時にすぐに、安全な状態で提供できるような商品にする。第二のコンセプトは「パパママ安心宣言」。乳幼児の栄養補給が安定することで、その乳幼児を育てる家族の不安を軽減する。 以上二つのコンセプトを念頭に、震災グッツとしてだけではなく短い乳幼児期に「いつでも用意しておこう」と思ってもらえる商品を目指す。また商品の定着により、日常生活における災害時の乳幼児の栄養補給のための備えを、各家庭に習慣づける。 そもそも、乳幼児に限らず震災時には被災者の清潔や食事、日常におけるあらゆることが困難になる。これは健常な大人でも耐え難く、社会的弱者はより、暮らしの中での危険や不自由さを抱えることになる。そして災害に関わる人や周りの被災者は自分のことでいっぱいいっぱいでなかなか援助まで手が届かないという現実がある。特に子供がいる家庭は普段の日常においても「子供の声が煩い」など子供に対する厳しい目にさらされることも多くあり、多くの人が集まる避難所ではお互いにストレスを溜めている中でどう立ち回ればいいのかという難しい問題が常に付きまとう。免疫の低い乳幼児にとって避難生活は生命に関わる危険が多く存在している上に、その家族は周囲との関係に一層の注意を払うことを強いられる。これは非常時において他の家庭よりさらに大きなストレスを、乳幼児を育てる家庭に課している。乳幼児の栄養補給が安定することは命をつなぐだけでなく、乳幼児を囲む人々のストレスを軽減させることにつながるのだ。

着想の経緯

私は小学校6年生の時に地元の岩手県一関市で東日本大震災にあった。内陸部だったので津波の被害はなかったが、断水や停電、ガスが使えないなど日常生活の困難を経験した。当時私は父とアパートで二人暮らしをしており、上階には若い夫婦が住んでいた。まだ赤ん坊のお子さんとの二人暮らしだった。一週間ほど続いた被災生活の中である日、その若いご夫婦が下の階に住む我が家に謝りに来た。「震災後から暮らしもままならず、赤ん坊が泣くことが多くなり申し訳ない。大したものではないが赤ん坊は食べられないので、良かったら」と言って、お菓子やジュースの入った袋を置いていった。当時私たちの暮らしていた地域はスーパーに2~3時間ならんでやっと数量制限のある缶詰を幾つか買える、という状態。恐らく、震災前に買っていた日持ちするお菓子やジュースだったのだろう。私たち親子は子どもを煩いと思うタイプではなかったので、震災前から苦情を入れたこともなく、被災中も他の課程のことよりも自分のことや仕事のことでいっぱいいっぱいだったために赤ん坊の泣き声を気にする余裕などはなかった。私はこの課題に取り組む際に、対象を社会的弱者にしようと考えた。しかし、社会的弱者にも多くの種類がある。老人か子供か障がい者か、外国人だって災害が起きれば人より多くの困難を抱えることになる。その中でも私が対象を「乳幼児を持つ家庭」としたのは、この経験があったからだ。他の社会的弱者について考えるよりも、より鮮明に実体験として還元できると考えた。 今回のアイディアで私は「乳幼児の栄養補給」と「乳幼児を抱える家庭のストレス軽減」を軸にしている。これは上階のご夫婦が、苦情があるわけでもないのにわざわざ謝りに来るほど周りを気にしていたことへの当時の衝撃や、「赤ん坊は食べられないから」という言葉が記憶に残っていたことをもとにしている。どうしたらあのご夫婦はもっと安心して被災生活を過ごせたのか。そう考えた時に思いついたのが、いつでもどこでも使える安全なミルクの提供だった。ミルクについて調べると、海外では一般的に販売されている液状ミルクが日本ではまだ販売されていないことが分かった。厚労省の認可がおりない、粉ミルクなどよりも利益率が低いなどの問題があると言われているが、持ち運びや常温での保存が可能な「液状ミルク」は災害時大いに役立つだろうと思う。私はこの「液状ミルク」に近い形で現在の日本でも販売できるような商品を考案したいと考えた。

イメージ図



作者

高橋 愛美

福本からの講評

とても良く考えられていると思います。商品化・製品化にあたり様々な課題は有ると思われますが、「困っている人の心情に共感する」に基づく発想であれば世の中で役立ち、活躍する可能性が大いにあると福本は考えています。高橋さんの体験談に基づき、ご夫婦の心情に共感した上で、どのような提案ができるのかといういている点と、企画・アイディア段階としては製品の「要件定義」、「基本設計」が高橋さん以外の人にもしっかり伝わる内容になっている点が高く評価できます。この提案を作成する途中で「海外で認められている商品が日本で認可を受けていないこと」、「社会的弱者は被災時に健常者の約2~3倍の死傷者が出る」など高橋さんにとって衝撃的な事実を知ることができたのは貴重な体験になったのではないかと思います。災害に限らず、長期的に受け入れられる商品・製品というのは考え抜かれたものである場合が多いと思いますが、その「考え抜く」ための一つの重要なステップとして「簡易試作」・「プロトタイピング」がとても役立つと思います。今回の提案の流れを大切にして頂き、今後、社会的弱者の方々の生活が底上げされるような商品・製品の企画・提案に活かして頂ければと思います。